振袖の柄や用尺を生かした良いリメイク案が無いか、長いこと考えています。
今回はフード付きマント試作のお話です。
振袖について
以前、振袖でモモンガKIMONO羽織を仕立てることはできませんか?とお問合せ頂いたことがあります。
留袖とは柄付けが異なりますので、かなり使用しない部分が出る為モモンガコートへのお仕立てについてはご提案を勧めませんでした。
そんなこともあって、長らく思案している案件の1つがこの振袖のリフォーム方法です。もう着る機会が無い場合にも、また普段着としてお召し頂けるデザインにならないかといつも考えています。
振袖の要素
振袖を着る機会は様々ありますが、すぐに思い浮かぶのは成人式、卒業式、ついで婚礼時でしょうか。
未婚女性の第一礼装として正式な場で着る装いです。
振袖振袖の長さには大振り袖、中振り袖、小振袖と3種類あります。
- 大振り袖(115cm以上)
- 中振袖(95~115cmくらい)
- 小振袖(85~95cmくらい)
未婚女性の第一礼装としての振袖は、披露宴やパーティーなどで大活躍します。
結婚式などに着て出席すると大変喜ばれますし、華やかで見ているだけで気持ちが明るくなるようなデザインばかりです。
洋服では考えられない事ですが、七五三用に作ったお着物をお仕立て直しされて、還暦を過ぎてからも現役の着物スタイルに活用されている事例もあります。
近年振袖はレンタル着物を活用する機会が増えましたが、仕立て直しながら長い間楽しめるように、柄つけなどを工夫された振袖もあり、日本独自の洗練された文化と言えます。
着物は一生物であり、何世代も着られることが魅力であることを再認識するのが、この振袖です。
リメイクデザイン案の検討
今回形出しをするにあたって、仮絵羽状態の新しい振袖を入手しました。
このような色合いの紅型模様は気負わず着られる面白い図案です。
黒留袖がモモンガKIMONO羽織に向くのは、身頃の上半身には図案が配置されない為、全ての柄を比較的綺麗につなげることができるからです。
対して振袖は左の上身頃から袖部分にむかって柄が一続きになり、肩から裾に向かっても大きな流れがあります。
着物のリメイクをする際に大切にしたいのはやはり図案の流れです。
特に絵羽柄の場合、裁断して絵が分断されてしまうのは勿体ないと感じます。難しいところなのですが、できるだけすべて使い切り、実際にスタイリングできるアイテムを考えたいところです。
仮絵羽は仮縫い状態なので、容易に解くことができます。
着物に縫われているものは、やはり解き洗い、地の目直しをしてから制作に進みますが、まずは平置きして絵の位置を確認し、どこに縫い目が入るかを考える工程を行います。
和洋兼用デザインとしての可能性
図案が素晴らしくパーティー向きの振袖は、華やかなドレスとして仕立てなおす方法が一番先に思い浮かびますが、長く着られることもリメイク目標のひとつです。
ドレスは体系に沿ったデザインになることが多く、着物の状態と違い、体形変化に伴って長く着ることが難しいという問題もありますので、今回はゆとりのあるアウターとしてのデザインを考えてみます。
アウターとしての可能性は、重衣類としてのコートや2ピース、3ピースで構成されるものなどが想定できますが、ひと続きで大きく柄を生かせるデザインにしたかったのでフード付きのロングマントに決定しました。
着物反物の幅は37cm程度が一般的なので、すべての縫い目位置を調整することは難しく、本来裁断したい希望位置に設定できない場合もあります。
できるだけ縫い目を利用しながら、必要なデザインを設計していきたいので、今回は縫い目利用の手出し口をつけました。
フロントにアクセントが欲しかったので、両玉縁のボタンホールにしています。
洋服においてのポケットや縫い目はデザインの1つであり、どんな形をつけるかによってがらりと印象が変わります。
形出し後のデザイン考察
結論からいうと、今回の試作アイテムは首ぐりの分量が想定よりも大きかった為に着用していると左右に動いてしまうという欠点がみつかりました。
着物の衿部分を見せたいという希望のもとに設定した首繰りのサイズ感だったのですが、これが裏目に出てしまったようです。
制作にあたって様々なアーカイブ資料、歴史映画なども見たのですが、首ぐりはきっちりと止まっていることが多く、最終の着用テストをしている時に改めてこの点に気付かされました。
フードも大きめにしたいという設定ではあったものの、やや深く、大きく作りすぎてしまいました。
デザインと実用の共生は難しいこともありますが、今回もまさにそれです。
形出し0号にありがちなことではありますが、今後の課題箇所です。
今回使用した着物には紋が入っていなかったためにまだ配置には自由度があったのですが、これに紋が入ってくると、さらに裁断箇所を検討する必要があります。
着物はそれぞれの柄付けや図案が異なる為、必ずしも同じようにパターンを配置できない事が常です。
余分なハギが入ると表にも響く場合があるので、今回は裏地に着物反物を使用せず、広幅の洋服用裏地を使用しました。
フードをおろした姿
最後にスタイリングをして確認します。
お客様へのご提案と同様に、どのような色の合わせ方が似合うか、実際に着てみたい、着てほしいスタイリングをイメージして着せつけをしていきます。
着物の柄や装いには日本の四季が取り入れられ、それら全てで楽しむものですが、洋服に仕立て直した場合には図案の時節を厳密にとらえることが難しい場合もあります。
デザインとして着やすい季節に、またはできるだけオールシーズンお召し頂けるものになるよう考えています。
着物を洋服に仕立てた場合、ともすれば柄と柄がぶつかってしまう印象になりやすく、スタイリングが難しい場合もあります。
せっかくリフォームするのですから、着る機会の多いデザインになったらいいなという思いもありますので、どのような着物とのスタイリングがオススメできるかという点についても重点をおいて、検討を続けていきます。
スタイリングに使用した着物
今回はHITATAREトランプの撮影にも使用したこちらの神戸真知子さんのお着物をスタイリングに使用しています。
現代的で抜け感もあり、どんなものにも似合うお気に入りの小紋です。まだまだ改良点はありますが、マントに振袖リメイクの光明を見た気がします。
ここからブラッシュアップしたものが現在販売中の留袖を使用したアイテムなのですが、今後も振袖を生かせるデザインを検討していきたいと思います。