岡重のレトロでモダンなトランプ襦袢地反物と、伊と幸(ITOKO)の高級喪服正絹反物を使った共生地ストール付きのHITATAREを制作致しました。
飽きのこないシンプルなシルエットながら、着物にも洋服にもお召しいただけるアウターです。
魅力的な岡重のトランプ柄
和遊湘南ではかねてより、着物コーディーネートにオススメできるトランプモチーフアイテムを制作していきたいね、との話をしていたのですが、なかなか良いテキスタイルに出会えずにおりました。
通年着ることができ、新しく定番化していけるようなHITATAREのデザインを検討していたところ、京都の老舗染色店「岡重」さんのレトロでモダンなこのトランプ柄に出会ったことでパッとイメージが固まり、製作を開始しました。
東レ シルックデュエットの特徴
絹のように優雅な光沢と美しい色合い。
一部引用:TORAY
気軽に洗えて、いつもきれい。
上質なパウダー調の肌触りと撥水効果、静電気防止の最高級ポリエステルです。
絹のような風合いながら洗濯機で洗えるので、天候を気にせず着用できます。
制作するにあたって、シルックデュエットの長襦袢新反物を岡重正規取扱店舗より取り寄せました。
このシリーズの襦袢地を触るのが初めてだったので、率直な感想は「思ったより地厚」だったのですが、かっちりとしたアウターを仕立てるには良い質感ともいえます。
絹の襦袢地に比べると厚さのみならず、ハリとコシもかなり強いので、表生地もそれなりに厚みのとコシのあるタイプの方が相性がよさそうでした。
そこで、今回は伊と幸(ITOKO)さんの喪服反物を表生地に使用することにしました。
こちらも昭和6年創業の老舗です。表裏共に上質な生地を使って、できるだけ飽きのこないデザインを考える、これが今回のもう一つのテーマです。
リメイクとは違うアプローチ
そんなわけで、今回はお仕立て上がりの着物をリメイクするのではなく、着物の反物を使用したデザインです。
そんなに良い反物を着物として仕立てず、洋服にしてしまうのはもったいないのでは?というお声も聞こえてきそうですが、喪服の反物を表地として採用した意図があります。
昭和の頃は喪服や羽織などを嫁入りの時に一式持たされる、というのがある種の日本の通例だったのですが、近年では式の際に洋装のみでの出席が許される機会も多くなりました。
その為ご家族の物も含め、未使用の喪服反物をお持ちの方は案外といらっしゃるようです。
反物の多くは絹であり、絹は本当に優れた素材ですから、お着物として着る機会が無い場合は、ぜひお洋服としてお召しになって頂きたいなと思います。
デザイン案を随時更新中ですが、ストール付きのHITATAREもご提案のひとつになれば嬉しいです。
反物の幅が最大のネック
ネックというと、少々ネガティブな響きではありますが、その制約がデザインするうえでの面白さでもあります。
今回のように無地の場合は柄あいでの組み合わせのパズル的要素はないのですが、コートなどのアウター制作の場合には、やはりその幅については悩むところです。
洋服用の生地幅というのは、綿ですと90cm程度のものからウールでは120cmと、着物の反物幅よりは圧倒的に広い傾向にあります。布の幅で何が違うのかといえば、デザイン線です。
ですから着物の反物を使用する場合はハギをいれて制作する前提で、どの程度のボリュームまでなら制作可能かを検討するところから始めることが多いです。
HITATARE(垂直)についてはその名称の通りストレートなシルエットが特徴なので、巾の制約はそれほどなかったものの、襟の形を検討するのに一番時間がかかりました。
HITATAREは洋服だけではなく和装でも着られるように、という考え方で製作しているので、首ぐりを下げてデザインします。緩すぎてだらしない印象にならないよう、複数回リテイクを行いました。
作業中の画像が無いのですが、台衿から始まって、フラットカラー、最終的に身頃から地続きの台衿のようなスタンドカラーに落ち着きました。
サイズ調整の為に着物を着付けた状態で立体裁断をする場合が多いのですが、抜きの部分の加減によっては後ろ身頃が空きすぎる傾向にあるので、生地の厚み等によって都度洋服に着て頂いても違和感の無いあき具合を検討して制作しています。
今回は表生地と同じくらいしっかりとした裏地なので、着地点としてモーニングのような礼装をイメージして進めました。
フロントはループで、滑りの良いフロストタイプのプラスティックボタンをつけています。
立体裁断で仕上げることにより、できるだけ余計な浮きのない襟元になりました。
メンズサイズでの検討は今後の課題なのですが、このまま男性用になっても着られるようなユニセックスなデザインとして考えました。
装飾としてのストール
反物を無駄なく使い切り、洋服として着回しができる事、実際に着るものとしてリアルクローズでありたいという思いはつねに持っています。
特に今回は黒なので、よそ行き感なく自然に普段着としての1着に取り入れて頂くことを目標にしました。
あとはなんといってもこの「岡重のトランプ柄」、できるだけ沢山見せたいですよね。
下着としての襦袢は見せるものではありませんので、本来こんな風に形になることは無いかもしれませんが、そこはせっかくの洋服なので楽しみたいところ。
この岡重さんのテキスタイルの持ち味であるレトロ感。
漢字がまざっている所がなんとも粋ですよね。
一緒に使えるアイテムとしてポンチョやミニケープなども考えましたが、柄をそのまま見せられるシンプルなストールを製作することに決定しました。
HITATAREのポイント
HITATAREは突合せで製作しているのですが、合わせる部分が少ないことで、自由なゆとりが多くなります。
これは動いた時に裏地を見せられないか?という和服の八掛的発想からきています。
ジャケットの裏地など、一部の魅せ裏地という文化は男性のジャケットやスカジャンなどでは見受けられますが、基本的にはあまりないことです。
ただ、洋服の無地裏地と違い、着物の反物や襦袢地は見せたくなるような優れた図案が多くあり、それをひそかに身に着ける粋な楽しみ方が存在します。
先ほどの話とも重複しますが、せっかく洋服として仕立てますので、動いた時にひらっと裾から見える柄。
そんなところを狙ってボタン数は少なめに、突合せで製作しています。
スタイリング
そのまま肩にかけていただいたり、ひとねじりしても◎ストールだけを単品でご利用頂くこともできます。
ご紹介したデザインの同型はセミオーダーメイドで製作致します。
紬や小紋などでの制作もオススメですし、このアイテムと同じように使っていない喪服反物があるという場合にはぜひお問合せ下さい。
ご依頼で製作する際に含まれている裏地代は、裏地等の素材についてのページに記載のある富士絹ポリエステルです。ブランド襦袢地および絹襦袢地ではありません。ご希望の場合は、ご相談時別途お見積りさせて頂きます。